海外では以前からかなり一般的なやり方となっていましたが、実は不動産売却には「オークションを利用する」という手段があるのです。
近年わが国でも少しずつ拡大している売却方法であり、いくつか注意点を守ればメリットのある手法ではあります。
とはいえまだ日本人にはなじみもなく、透明性などの点でやや不安も残りますので、まずはインターネット上の不動産オークションのシステムについて見ていきましょう。
オークションとは競売とも呼ばれ、あるものを売却するときに使われる手法の一つです。
出品者は出品物に関する情報を広く世の中に提示し、欲しいと思った購入希望者がそれぞれ購入額を提示しあいます。
この提示の仕方にいくつかバリエーションがありますが、基本的にはこのような流れの商取引です。
メリットとしては、取引相手を不特定多数にすることで最高値で売れる可能性がある点でしょう。
日本でも美術品や骨とう品、宝石や貴金属については専門のオークション会社があり長い歴史がありますが、不動産に関してはまだ始まったばかりです。
インターネットサービスが始まってしばらくしてから隆盛してきたサービスの一つです。
形式はオークションでありながらインターネット上で入札が行えるという点が画期的で、現在でも人気の取引方法となっています。
出品者は対象物の写真や説明などをインターネット上にアップし、公開状態にして入札を募るのです。
多くの場合最低入札額が設定されており、それを超えた範囲で最高額を提示した入札者が落札、購入の権利を得ます。
黎明期にはかなりのトラブルがあり、簡単に入札を取り消したり途中で条件が変わったりなどして現在ほどには洗練された形にはなっていませんでした。
競り上がり方式とはオークションの入札方法のひとつで、その名が示すとおりに最低価格から始めてどんどんと高値をつけていく形式です。
まさにオークションというにふさわしい盛り上がりがあるため、実際に会場に足を運んで行われることもありますがインターネットでの不動産オークションでもよく用いられます。
購入者同士が競うことによって値段が上がっていくため出品者側としてはメリットもありますが、反面「釣り上げ」が可能であるなど問題点も指摘されます。
また最低希望価格を高く設定しすぎると入札自体がなくなるため、このあたりの見極めも容易ではないという難しさもあるのです。
ブランド物のバッグや靴などと違い、不動産オークションは売買価格がそれらの数十倍になる大きな取引ですから、相手方に要求する信頼性も必然的に高いものになります。
インターネットという相手の顔の見えない取引においては、様々な手段でこれを高める工夫をしなければ健全な売買は難しいという事情が存在するのです。
そういったことにコストがかかるため、仮に高値で売却できたとしてもオークション運営者に対する手数料は発生してしまいます、利用する際にはそのことも頭に入れておくのがおすすめです。
不動産売買という非常に大きなお金を動かす取引に、競り上がりの競売は入札が見込めないから使いたくないという売主さんもいます。
こういった場合、もう一つの代表的な形式である「フリービット方式」がとられるケースが多いのです。
フリービット方式の場合はオンラインで行うメリットが少ないため、会場に実際に足を運んで用紙に希望額を記入する「紙入札」の形となることがほとんどになります。
こちらの場合も、利用するにはよく仕組みを理解しておく必要があるでしょう。
競り上がり方式と異なるやり方で、基本的に購入希望者はたった一度だけ入札のチャンスを与えられます。
その入札額が最低額を超えており、なおかつ入札者の中で一番高額であれば落札となる仕組みです。
この方式のポイントは、落札最低額が明らかになっていないことでしょう。
人気のある出品であればたった一回のチャンスを逃さないため、かなり余裕をもった高値がつくことが期待できるのです。
もちろんライバルもいますので、彼らより高額に設定することも求められます。
うまくいけば相場よりかなり上積みが期待できますが、問題点もあるやり方です。
不動産オークションでもし自由自在に落札額を決められれば、その人物(会社)は莫大な利益を生むことが可能です。
相場よりずっと安く物件を手に入れたり、あるいはずっと高く売却したりが出来るのですから不正の温床になりやすいと言えます。
そのため不動産オークションではその過程に常に透明性が求められているのです。
とくにフリービット方式では、ブラックボックスのなかで判定が行われるため情報が漏えいすれば「最高額より1円多い」というギリギリの金額で落札出来てしまいます。
このようなことがないよう、さまざまな手立てが必要となるのです。
紙での入札は入札者自らが会場に足を運んで行いますから、全国から希望者を募るというのは物理的になかなか難しいという問題点を抱えています。
東京や大阪などの都市部で行うのが通例ですが、それでは遠隔地に住んでいたり足腰に問題のある高齢の購入者にアクセスできないことにもなってしまうでしょう。
インターネットでの不動産オークションと比べると、明らかに入札者に制限がかかるため物件によってはこちらの方法をとれないこともあります。
不動産業者と相談したうえで検討しましょう。
紙入札は入札額だけでなく、ケースによっては物件購入後の利用方法(住宅として使うのか、飲食店にするのか等)まで含めて総合的に評価が行われます。
そうすると審査に時間がかかり、不動産オークションから数か月後にようやく落札者が決まってその後契約、と非常にスピード感のない取引になってしまうこともあるでしょう。
高額な物件であればあるほど慎重に審査されますが、同時に時間の経過は売り主に機会損失を与えるという側面も持っています。
通常の取引に比べてだいぶ時間をとる可能性があるということを、紙入札を利用する場合は押さえておきましょう。
✔ネットオークションは買い手の情報が不透明なため注意が必要
✔トラブルの原因となる要因を含んではいるが成功すれば高額売却が可能
✔売却まで時間がかかるので注意
不動産オークションでの落札は、とくにインターネット経由のものとなると実際に振り込みがされるかどうかがはっきりと担保されないという面を持ちます。
それは買い主としても同じで、売り主が物件を引き渡すか、渡すにしても期日通りになるかなどに今一つ確証が持てません。
利便性と全国的に落札者を募るためにインターネットを利用したわけですから、そういったデメリットは我慢しなければならないのでしょうか。
そんな悩みを解決するために登場したのが、エスクロー信託サービスとその運営会社です。
エスクローとは「同時履行」「同時交換」を目的としたもので、債務の不履行や不払いなどを防ぐために行われる手続きとなります。
信託の一種ではありますが、中立的な第三者が間に入って行うという点でかなり特殊なものです。
日本ではまだあまり浸透しておらず、いくつかの銀行や金融機関、それにエスクロー信託専門の企業が行っているにすぎません。
理解しづらい部分もあるため、具体的な流れから見ていきましょう。
エスクロー信託は、高額な売買の契約が成立した後に「買った物件が引き渡されない」あるいは「約束の金額が支払われない」というトラブルを未然に防ぐためのものです。
わかりやすく言えば、「売買の間に入って、代金と商品を同時に売り手と買い手に手渡す」ことでどちらにも目的のものが渡り、円満に取引を終わらせるのが目的です。
とはいえ実際には現金や不動産を手渡しはできないため、一般には買い手からの振り込みが確認されてから信託会社が契約を確認し、物件の移転登記などの必要な処理を行うという流れになります。
欧米なみにビジネスに関するマインドが徹底していれば良いのですが、日本では顔を合わせた相手に対し「疑うようなことをすると失礼だ」といった意識が働いてしまいます。
そのためエスクローのような、相手の背信行為に備えるということがしづらい土壌が出来てしまっているのが現状です。
そもそも専門家であるはずの不動産業者ですら「エスクロー信託」について正しく理解している方は少なく、業者が寡占状態であるため費用も高額になってしまいます。
なかなか手軽に利用するというわけにはいかないでしょう。
信託会社は完全な第三者性(中立の立場)を守るため、取引自体の成否や中身については一切口出しやアドバイスをせず、ただ仲介を行うのみです。
またたとえば買主が当初の契約の金額を「支払わない」と言い出したとしても、それに対して支払うよう説得したり勧告したりということもしてくれません。
支払いがなければ物件の移転登記が行われないというだけですので、結局その場合は取引不成立で信託報酬や各種の事務手数料だけを支払って元の状態に戻ってしまいます。
民事で不履行を訴えて損害賠償請求は不可能ではありませんが、ペイするかどうかは非常に疑問ですので、トラブルの場合はけっきょく泣き寝入りとなってしまうでしょう。
信託という言葉だけで門外漢にとっては敷居が高いものですが、エスクロー信託の場合はさまざまな法律が絡んでおり自分で行おうと思っても簡単ではありません。
文化的な理由以外にも、この制度があまり根付かないのは日本の法律に抵触しやすいやり方だからです。
もちろん悪質性があったり違法というわけではありませんが、解釈によっては規制に引っかかって事態が動かなくなるリスクもあります。
不動産オークションの決済のためにエスクロー信託を行う場合は、この辺りをある程度理解してから動くことが大切です。
出資法の中に規定されている「預り金」という性質のお金がありますが、エスクロー信託においてはいったん買主から代金を預かるというプロセスがあるのです。
このお金は提供者に返すわけではなく、売り主に最終的に渡る予定のため預り金に該当しないという解釈が一般的ではあります。
しかしトラブルがあって結局取引ができない場合には返金という形になるため、結果的に預り金だと見なされる可能性が出てくるのです。
預り金には各種規制がかけられるので、このようにとらえると法律上非常にやっかいな事態にはまりこんでしまいます。
信託会社は注意してくれますが、リスクとして把握しておきましょう。
お金を売り主に渡す際には、当然ですがお金の移動、受け渡しが発生します。
これが資金決済法における為替取引に該当する可能性があり、もし該当すると「金額が100万円まで」という規制に縛られることになってしまうのです。
不動産取引で100万円では取引が成立しませんから、最悪の場合法に触れないためにいったんすべての契約を解除してやり直す必要が出てくることもあります。
税理士、あるいは弁護士と相談してこれらへの対策を行う必要があるでしょう。
名前の通り、エスクロー信託に関しては信託契約というくくりで行う場合があります。
また、そういった文言を使用していなくてもスキームが同様のものであれば信託契約と見なされる可能性があるでしょう。
そうなると信託業法の縛りを受けることにもなるため、完全に自由な契約内容に出来るわけではありません。
間に入る業者に免許が必要となるケースもあり、ここで頓挫してしまうこともあり得ます。
しっかりとした信託業の免許を持った業者を選ぶなど、依頼者側も知識を持って臨む必要があるでしょう。
先述のように、エスクロー信託はメリットもあるのですが色々な法律に触れやすいためトラブルが起こって話が止まってしまうという危険性もあります。
似たような同時交換のやり方としては、「司法書士をハブに使って同時履行する」「同時履行のための銀行口座を新たに開設して用いる」などのものがあり、これらは専門家に依頼の必要もなく法にも抵触しません。
不動産オークションのためだけにエスクローにこだわる必要は、よほどの事情がなければ薄いと判断されるでしょう。
取引時の選択肢の一つとして念頭に置いておくにとどめ、他に無い場合には頼ってみるというのが賢いスタンスです。
✔エスクロー信託はオークションを円滑に進めるために有効
✔リスクも大きいので初めての方にはおすすめしない
不動産を通常の仲介ではなく、オークションで売ることで得られるメリットはいくつかあります。
やり方次第ではかなり相場よりも高値で売ることが可能ですし、それに頼らずとも手持ちの物件を高く評価してくれる相手に出会う可能性も高まるでしょう。
紙入札であれば実際にさまざまな人たちと知り合いになるチャンスでもあります。
人脈を広げ、不動産投資に活かすという考え方もあるでしょう。
ちなみに、差し押さえ物件などが付される「競売」とオークションは別物ですので注意が必要です。
インターネットオークションに顕著ですが、とにかく売りだしたい対象をなるべく多くの人に見てもらうことで、強く「欲しい」と言ってもらえる買い主に出会う確率が上がります。
不動産業者経由でももちろん広告は打ちますが、業者側にも都合があるため「もっと優先して売りたい自社物件がある」「手数料利益が見込めない」といった理由であまり熱心になってくれない場合もあるでしょう。
オークションならそのような心配はありません。
「もっと高く買ってくれる人がいるかも」という後悔をすることなく売却へ進めます。
不動産の価格はあやふやなように見えて、実は知識を持ったプロが査定すればおおよそのところは同じような価格に決まってしまいます。
それが相場であり、そこから外れて高値で売るということは普通のやり方ではとても望めません。
しかし、オークションであればフリービットで思い切った値を付ける人がいる可能性もあります。
または競り上がり方式で後に引けなくなってつい金額を上積みしてしまう買い主もいるでしょう。
オークションの進め方次第では普通のやり方より高値で売ることも出来るので、事前にどのようなやり方で実施するのか業者としっかり打ち合わせをしておくことが大切です。
オークションへの出品の際には、経験のある不動産業者もしくはオークション運営者と契約を結ぶことになります。
その後の手続きはほぼ自動的にやってくれますので、売り主はただ待っているだけということになるのです。
決めるのは落札の最低額くらいがせいぜいであり、紙入札ではなくインターネットオークションなら自宅にいながら状況を見ることが出来ます。
上手く事が進めば、依頼から契約終了の間には家から出ずに取引することも可能です。
一度不動産オークションを出品者として経験しておくと、それ以降自分が物件を購入したいときに落札者として参加しやすいというメリットがあります。
仕組みがわかっているだけでなく、出品者側の心理も知っているわけですから他の参加者より有利に入札が行えるでしょう。
相場より安く買える物件もあるので、落札側として参加するのも有意義です。
不動産オークションで物件を売却するとメリットもありますが、もちろんデメリットも数多く存在します。
売り主や物件の状況しだいでは大きなデメリットもあるため、不動産業者や専門家とマイナス面も良く検討したうえでオークションの利用を判断しましょう。
とくに手数料や信託報酬などは馬鹿にならない金額であり、何度もトラブルで契約が流れてしまえば無駄にコストだけがかかってしまいます。
オークションは紙入札のように会場が必要なものはもちろん、インターネット上であってもシステム手数料などの費用がかかります。
それを上回る高値で売却できれば良いのですが、落札最低額の設定を間違えると入札もしてもらえず、手数料だけがどんどんと引かれ赤字が広がってしまうでしょう。
売却できたときにだけかかってくる不動産屋の仲介料とはまったく異なる料金体系であることには注意が必要です。
不動産オークションでは、当然出品する不動産の情報をかなり細かく公開して落札者に見せなければなりません。
入札するかどうかの判断のために内覧会を行うこともしばしばあり、売り主や物件の位置、実際の状況などかなり詳細なデータを不特定多数に与えることにもなります。
そうなると仲介業者を挟む意味が薄れて不動産業者と不仲になったり、防犯などの観点からもあまり歓迎できない状態になるでしょう。
売却のためではありますが、こういったリスクの存在は認識しておいた方が無難です。
オークションは仲介取引よりも多くの手間をかける分コストもかかってしまい、トラブルで取引中止などが起こるとそれだけで多額の損失を招きます。
そのためエスクローなど何重にも保険を必要とし、そちらにまた費用がかかるという構造です。
高額取引であればこういった費用は仕方ない側面もありますが、スムーズに取引できない落札者に当たってしまうことはあり得ますのでいくつか対策を講じておきましょう。
落札者を選ぶ際、金額だけで選ぶと取引がうまくいかない可能性があります。
そのため落札者の素性や、どのような目的で物件が欲しいのかなどを総合的に判断して落札してもらう相手を決めることも可能です。
手間と費用がかかりがちなオークションで、契約のトラブルを避ける知恵でもあるのですがここにもデメリットは潜んでいます。
総合的な判断はとても情報収集や決定に時間がかかるので、高額な物件であればその間稼げたはずの収入の機会損失をしていることになるでしょう。
時間も決して有限ではないため、リスクを避けすぎて結果損をするといったことがないように全体を見て判断を下す必要があります。
これについてはオークション業者との信頼関係の問題ですが、オークションでは不正の可能性を常に疑う必要があります。
落札最低額が漏れていれば、それとほぼ同じ金額で落札されてしまうのです。
また落札されたら必ずその相手と取引しなくてはなりません。
金額に不満があるとして引き渡しを拒めば、契約不履行で責められる可能性もありますし信頼も失ってしまいます。
買い手側からしても、競り上がり方式で一人がどんどん値段を吊り上げていると売り主側の関係者を疑って入札しなくなってしまうでしょう。
透明性を保つためには、かなりの工夫が必要となります。
✔相場よりも高く売却できる可能性はある
✔手数料や管理費などで費用がかさむため注意が必要
オークションで不動産を売るのは多くの人の目に触れるというメリットもありますが、複雑な仕組みであるがゆえにコストもかさんでしまい、エスクローなど難解な仕組みも理解しなければなりません。
どうせインターネットを利用するならば、オークションではなくていわゆる「一括査定」のサイトを試してみるのがおすすめです。
大規模なサイトであれば日本全国の不動産屋と提携していて、買い主探しを全国規模で行えます。
その点を除けばあとは通常の契約の形をとるのであまり余計な費用もかかりません。
オークションに比べてスピード感があるのも魅力的で、買い主が近場の人であればすぐに内覧してもらって一週間程度で成約ということもあり得ます。
ひとつずつ不動産業者に見積もりをとるより、効率よく最高値で売りたい場合は一括査定サイトを活用しましょう。